仮想流束法による大動脈弁まわりの血流解析

 心臓が効率の良いポンプとして働き続けるためには,各心臓弁の機能的な作用が必要不可欠である.例えば,心臓弁の機能低下に伴う病気に大動脈弁狭窄症がある.大動脈弁狭窄症は,弁膜の肥厚や石灰化により,弁開放時の弁口面積が十分に確保できなくなる病気であり,これにより,心臓の血液拍出効率は著しく低下する.一方で,心臓の外壁側に位置する冠動脈(心臓に栄養を供給するための血管)への血液供給量は,その幾何学的な位置関係から,大動脈弁の開閉運動に深く関わっていることが示唆されており,特に,大動脈起始部に存在するバルサルバ洞内に発生する渦は,大動脈弁の閉鎖運動と冠動脈への血液流入に大きな影響を与える可能性が考えられる.このことから,バルサルバ洞内における血液流れを詳しく調べることは,大動脈弁の開閉運動や冠動脈への血流調整,さらには大動脈弁狭窄症の発症メカニズムや人工弁の最適構造を知るための重要な手がかりとなることが期待される.本研究では,バルサルバ洞の幾何学形状や大きさが洞内に発生する渦度の大きさに与える影響を計算力学解析により考察した.
 Figure 1に大動脈モデルにおける渦度分布図を示す.バルサルバ洞の軸方向長さはそれぞれ直径の1倍(上図)と直径の2倍(下図)であり,洞の奥行きは共に直径の1/2倍である.入口(左心室側)から拍出された血液が,時間の経過と共に大動脈側へと流れていく様子を確認することができる.またその際に,バルサルバ洞内へと流れ込んだ血液が大動脈弁を振動させることにより複数の渦を発生させた.バルサルバ洞の軸方向長さと渦度の大きさには正の相関関係があった.このことから,大動脈弁まわりに発生する渦の大きさは,バルサルバ洞の軸方向長さと深く関わっていることが分かった.

Figure 1.大動脈モデルにおける渦度分布図

 

About Studyのページに戻る

 

トップページに戻る