流体−固体連成解析による壁面せん断応力のバイオメカニクス

 心臓の収縮により拍出された血液は,大動脈を拡張させ血管壁を振動させる.この血管壁の振動(脈波)は血流とともに血管の末梢側へと伝播する.これを脈波伝播現象と呼び,脈波伝播現象の理解は血液循環系を知る上で重要である.特に,動脈硬化症に代表されるような血管病の発症には血行力学的な要因が深く関わっていることから,脈波伝播現象を知ることは,動脈硬化症の発症・進展のメカニズムを解明するための一助となることが期待されている.本研究では流体−固体連成解析により,ヒト大血管を模擬した直円管における脈波伝播解析を行い,脈波伝播に伴う壁面せん断応力の空間的・時間的変化を生体力学的に考察した.
 Figure 1に軸方向血流速度のコンタ図と血管壁の円周方向増分,軸方向変位,軸方向速度,および壁せん断応力を示す.単一の矩形波を血管に与えることにより,血管壁に2つの軸方向速度波(縦波と横波)が発生した.血管壁の縦波は,負の速度を保ちながら末梢側へと伝播した.その結果,壁面近傍の血液との相対速度を上昇させ,局所的に壁面せん断応力を増大させた.そのときのせん断応力の増大は0.5 Paに及んだ.同様に,血管壁の横波も壁面せん断応力に影響を与えたと考えられる.血管壁の横波は,脈波と共に正の速度を保ちながら末梢側へと伝播したため,縦波とは逆に,壁面近傍の血液との相対速度を減少させたと考えられる.すなわち,血管壁の横波を考慮に入れると,血管壁が剛体であると仮定したときよりも,脈波が伝播する際に生じる壁面せん断応力が低くなる可能性が考えられる.また,縦波と横波とが重なるとき波の振幅は約2倍となったことから,両者が重なり合う部位において,壁面せん断応力が局所的に約1.0 Pa変化することが考えられる.この値は生体力学的に有意であることから,動脈硬化症の発症と病変部位の進展のメカニズムを考察する際には,血液流れのみならず,脈波伝播に伴う血管壁の運動も詳細に調べる必要があることを示しており,血管壁の運動が動脈硬化症の好発部位に関わっている可能性も示している.

Figure 1.脈波伝播に伴う壁面せん断応力の変化

 

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