脈波伝播解析による血管病診断の検討

 左心室の拍動に伴う血管壁の振動(脈波)は,血管の幾何学的・力学的な不連続点において,反射波と透過波とに分かれる.この反射波を調べることは,血管の幾何学形状や血管壁の力学特性を探る手がかりとなる可能性が考えられる.本研究では,脈波波形から各種血管病変を推測する手法の検討を目指し,狭窄血管と動脈瘤モデルにおける脈波伝播現象を流体−固体連成計算解析により再現し,両モデルにおいて発生した反射波の違いを考察した.
 Figure 1に,狭窄血管モデル(狭窄率70%)における軸方向速度分布図を示す.左心室の拍動を模擬した単一の矩形波を与えることにより,高速度領域が時間の経過と共に末梢側へと伝播し,狭窄部位において反射波と透過波とに分離した.この反射波を示す速度領域が寒色系(青色)であることから,狭窄部位で発生した反射波は定常流よりも遅いことが分かる.Figure 2に動脈瘤モデル(最大拡張径50 mm(直径の2.5倍))における軸方向速度分布図を示す.狭窄血管モデルと同様に,入口で発生した高速度領域が時間の経過と共に末梢側へと伝播し,瘤部位において反射波と透過波とに分離した.動脈瘤モデルにおける反射波の速度領域は暖色系(赤色)であり,定常流よりも速いことが確認できた.

    Figure 1.狭窄血管モデルにおける軸方向速度分布図         Figure 2.動脈瘤モデルにおける軸方向速度分布図

 Figure 3に狭窄血管モデルの容積脈波波形を,Fig. 4に動脈瘤モデルの容積脈波波形を示す.各図において,左手の波は時間の経過と共に末梢側へと伝播していることから,前進波であることが分かる.病変部位において,この前進波は反射波(後退波)と透過波(前進波)とに分離した.それぞれの反射波の位相を比較すると,両者は互いに180度ずれていることが分かる.これは,伝播する波が持つ性質に起因していると考えることができる.波の性質上,前進圧縮波と後退膨張波は流れを加速させ,一方で,前進膨張波と後退圧縮波は流れを減速させる.このことから,狭窄部位ならびに瘤部位において発生した反射波はそれぞれ後退圧縮波と後退膨張波であると考えられ,両者は互いに異なる性質を有することが確認できた.

      Figure 3.狭窄血管モデルにおける脈波波形             Figure 4.動脈瘤モデルにおける脈波波形

 

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